orangeitems’s diary

40代ITエンジニアが毎日何か書くブログ

「俺、コンサルタント。準委任だから品質には責任持ちません」をもっと理解する

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問題編

「俺、コンサルタント。準委任だから品質には責任持ちません」という記事ですが、もやっとしませんでしたか?

 

www.atmarkit.co.jp

以前もお話ししたが、裁判所は、周囲から思われているほど形式主義ではない。コンサルティングだから準委任契約。準委任契約だから成果物の品質に責任は負わない、などという単純な切り分けはしないし、それは実際の開発現場でも大切な考え方である。

 

これがまかり通れば、せっかく上流を準委任契約として要件定義時の責任をユーザー側とすることができたのに、裁判時には請負契約とみなされる。それならば、契約とはいったいなんなのか?と思いませんでしたか?

私は思いました。

そもそも、経済産業省が示している「情報システム・モデル取引・契約書」には、こんなことが書いてあるからです。

 

モデル取引・契約書<第一版>(PDF形式:4,350KB)

企画段階は、準委任契約とする。企画段階は、ユーザ側の業務要件が具体的に確定しておらず、ユーザ自身にとってもフェーズの開始時点では成果物が具体的に想定できないものであるから、ベンダにとっても成果物の内容を具体的に特定することは通常不可能である。そのため、仕事の完成を目的とし予め成果物の内容が具体的に特定できることを前提とする契約類型である請負には馴染みにくく、準委任が適切と考えられるからである(12ページ)。

 

絵まであるので引用します。

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企画段階と言う言葉は要件定義を明確に含んでいます。

 

また、以下の記載もあります。

あるべき分担モデルとしては、ユーザが、企画段階において業務要件及びシステム要件(外部設計に対するインプット)を主体的に決定・明確化する。その上で、開発段階において、ベンダが主体となって業務全体に対する利害関係者(ス テークホルダ31)の要件のうち、システムに関する部分(システム要件)についての仕様化を行う。

 

つまり、経産省は要件定義はユーザー側が主体であり、責任を負うことが望ましいとしているのです。

 今回の事例は、契約形態が準委任であっても、結局は請負責任を負わなければいけないという判例のように見え、違和感を持って然るべきかと思います。

 

解決編

読み返してもこの判例の意味するところがわかりませんでしたので、この東京地方裁判所 平成22年9月21日判決の別記事を探したところ、見つかりました。

 

itlaw.hatenablog.com

 

内容は上記文書をご確認ください。

わかりやすく自分のことばで要約してみます。以下は個人的見解です。

 

コンサルティング会社は、システムの3つの領域全てのコンサルティング(要件定義・開発管理)について学習塾と準委任契約を結びました。そのうち1つの領域だけは自分で開発するので、開発契約を請負契約で結びました。その他の領域は他のベンダーが開発します。

コンサルティング会社の開発したものは問題なかったのですが、その他の領域で他のベンダーの開発物に問題がありました。移行前のシステムの機能が入っていなかったのです。

学習塾は、他のベンダーの開発物について検収を拒否するとともに、コンサルティング会社の開発物の検収も拒否しました。かつ、他のベンダーを開発管理していたコンサルティング会社の責任も問われるべきだと考え、準委任であったコンサルティング部分の契約も検収を拒否しました。

 

いかがでしょうか。

もしかしたら、要件定義の段階できちんと検収まで終わらせてから次に行けば、こんなことにはならかったのではないかな、と推察します。

経産省も、要件定義までベンダーに丸投げにしてしまうから、ユーザーが欲しくないものができあがってしまうと問題提起をしているのです。ベンダー側は、準委任契約を利用するのであれば、きちんと検収を完了させ、作るものを明確にし、ユーザー側の責任を明確にするのが良かったのではないかと思います。

要件定義したものは、ユーザーの責任。そこに書かれていないものがあり開発に反映されないのであれば、ユーザーの責任。要件定義されたものを開発するのがベンダーの責任。

これを実現したければ、開発の最終工程が終わるまで検収されない準委任契約など、裁判所から見れば、体をなしていないと解釈されても不思議ではないという判例だと、思いました。

 

備考

本判例について、別記事のリンクも掲載しておきます。

 

blogs.itmedia.co.jp