orangeitems’s diary

40代ITエンジニアが毎日何か書くブログ

IBMのRedhat大型買収、両者のメリットを推測する

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IBMによるRedHat買収

本件、朝から業界関係者の話題となったのではないでしょうか。

 
www.nikkei.com

米IBMは28日、クラウド向けソフトウエアなどを手がける米レッドハットを約340億ドル(約3兆8000億円)で買収すると発表した。IBMは急拡大するクラウド市場で米アマゾン・ドット・コムに出遅れたが、過去最大のM&A(合併・買収)で逆襲に転じる。アマゾンを含む「GAFA」など新興勢に追い詰められた20世紀のITの巨人が大型買収で賭けに出ている。

 

このねらいと、両社のメリットについて、クラウドで働くインフラエンジニアの立場から考察したいと思います。

 

両社のメリット

IBM

IBMは何の会社か。さかのぼること2015年。米IBMの会長であるジニー・ロメッティが言ったのは「コグニティブ・ソリューションとクラウドプラットフォームの会社です」という言葉です。

 

cloud.watch.impress.co.jp

米IBMの会長であるジニー・ロメッティが言っているのは、IBMはコグニティブソリューションとクラウドプラットフォームの会社ということ、これは、腹落ちする、わかりやすい言葉である。

 

コグニティブ・ソリューションについてはワトソンやアナリティクスなどで先行した感はあるものの、クラウドプラットフォームについては、AWSやAzure、Google Cloudの後塵を拝している印象が日本のエンジニアには強いのではないかと思います。これは3社は、B2C、つまり消費者向けのチャンネルを持っていることが主因となっています。AmazonはEC、MicrosoftはWindowsやOffice、Googleは検索等でお馴染みかと思います。それぞれ元々、消費者向けサービスを行うためにコンピューティングリソースが必要だったところからパブリッククラウドの基礎が始まっています。しかし、IBMの場合は、2013年にPC事業をクライアント・サーバー含めてLenovoに売却した時点で、B2Cのチャネルが全く無くなってしまいました。もちろん企業向け、特にエンタープライズの分野には訴求力は強く、グローバルでIBM Cloudのシェアは伸びておりGoogle Cloudと互角のところまで来ています。しかし消費者向けへの訴求が3社より弱く特に日本では、一般の人々には「IBMって何の会社」とまで言われるような状況なのではと思います。

一方、Red Hatについては、Linuxが個人ベースで人気を博したころから、Linux市場では常にリーダーであり、オンプレミスにおけるLinuxインストールベースはかなりのシェアをRed Hatが握っています。Red Hatの幅広い顧客へリーチできるようになることを考えると、PCサーバー売却で失ってしまった中小企業へのリーチを一辺に取り戻す投資として最高の戦略だと思います。特に日本でのシェアは特筆ものです。

かつ、現在IBM Cloudはベアメタルサーバーが使えることを強みにし数多く残る企業のオンプレミスシステムのクラウド化を狙っています。最近は東京エリアに対しマルチリージョン化(3か所)を行い、他社クラウドベンダーに劣るどころか強みまで持つようになってきました。VMwareは既に提携を行っています。

 

ascii.jp

 

あとはOSということで、Red Hatをおさえたことで、企業がオンプレミスを移行する基盤としては必ず選択肢に挙げられるようになると思います。VMwareとRed Hatをおさえるということは、オンプレミスの大半を掴むに等しいと思います。

さらに、最近はKubernetesにもIBM Cloudは力を入れていて、前述のマルチリージョン(3か所)にてワーカーノードをそれぞれ動かし、そこでコンテナを動かすことで頑丈な設計を提供するようになりました。3つのリージョンはかなり太いプライベートネットワークで結線されていて、かつ無料で利用できるのでこれは今後、Kubernetes/コンテナを動かすプラットフォームとしては他社をリードするのではないかと思っていました。ただし、このKubernetesのマネージャーにしろワーカーノードにしろ、IBMマネージドでありSSHログインすらできません。では何のOSで動いているのか、と言ったときにRed Hat Linuxを持ち出せるようになれば、企業ユースとしては最高のプレゼンスになるのではないかと思いました。また、その仕入れも自社リソースということで、Red HatでうごくKubernetes、マルチリージョン、ベアメタルとの親和性(VMwareなど)を含め、オンプレミスからクラウドに来た私としては最高のプラットフォームに仕上がる可能性が高いと、今回の買収劇を踏まえかなり好意的に捉えています。

IBMはクラウドプラットフォームの会社、という言葉がやっと意味を持ちだしたと思います。

また、単なるSI案件においても、ベンダー各社がよく行いがちであるRed Hat Linuxを利用したソリューションでの提案の場合、IBM傘下のOSであることでIBMの提案力が引き立つという利点もあると思います。

 

Red Hat

VMwareがDELLに買収されたときと似ているのですが、同様にIBMもRed Hatのブランドはこのまま継続させると思います。Red Hatは、オンプレにもクラウドにも入り込んでいてIBMにクローズドとなることは決してあり得ないし、何のメリットもないと思います。VMwareだって、Dellの子会社であることを意識することは少ないのと同じです。では、なぜRed HatはIBMについたのか。

Red Hatの売り上げの大部分はRed Hat Linuxのサブスクリプションによるものですが、パブリッククラウド陣営は対策を講じています。特にAWSは、Amazon Linuxを中心に置きサポートを付けてEC2と抱き合わせで売ることで、Red Hatのシェアを奪いに来ています。Oracleは、ほぼRedHat Linuxと同じ中身のOracle Linuxにこれもまたサポートを付けて販売しています。AzureはもともとWindows Serverが主力です。Linuxベースが増えているにしろ、CentOSなどフリーのものも多いと推測します。Google PlatformはKubernetesが主力でしょう。Red Hatをあえて入れるシーンも少ないと思います。今後オンプレミスのインストールベースが減少し、パブリッククラウドに移っていくのは間違いなく、その過程でパブリッククラウドのプラットフォーマーがRed Hatのインストールベースを奪っていく可能性があると思っていました。

特に、Red Hatは自社でパブリッククラウドを持っていませんので、「Red Hat Cloud」と呼べるものがありません。コンテナ戦略も、Open Shiftという強力なソフトウェアを構築しつつも、オンプレミスでの構築が主戦でした。VMwareと課題は同じで、パブリッククラウドでどうやって陣地を確保し成長戦略に乗せるかが重要です。今回、Red HatはIBM Cloudというプラットフォームに照準を当て、彼らの持つ多彩なソフトウェアをPaaSとして展開していくに違いありません。もともとサブスクリプションビジネスでのソフトウェア開発・販売を得意としていますので、IBM Cloudのもつ低レイヤのIaaS部分(昔SoftLayerと言われていた部分)は相性がいいのです。これはSoftLayerをIBMが買収した理由でもあると思います。

 

今回の買収はWin-Win

このように、一見Red HatがIBM傘下に入る理由は一般にはわかりにくいと思いますが、Win-Winの理由がかなり散見されます。

これまでのオンプレミスのインフラの世界から見て、パブリッククラウドはいいところもあればまだオンプレミスの歴史を取り込めていないところもありました。クラウドで実現するにはいろいろ制約があり、工夫しなければいけない状況が続いていました。今回の提携によってオンプレミスの世界をそのままパブリッククラウドに実現できる、そんなプラットフォームが出現してくれることを願い期待を込めて、進捗をウォッチしていきたいとおもいます。

 

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