※大いにフィクションです。ご注意ください。
顔認識と居眠りとクーラー
ある日、いつも通りに出社し席に着くと、ディスプレイの上にWEBカメラが取り付けられていた。これは何だろうと思ったらメールが来ていて、何か情シスがシステムを導入したらしい。何だろう、SKYPEでも導入する気だろうか。
メールを開くと、情シスから通知があるかなと思ったら、なんと総務部長から通達が来ていた。
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全社員およびパートナー 各位
お疲れ様です。総務部長の〇〇です。
本日より、生産性向上のため、新しいシステムを試験導入しました。個々のディスプレイの上にWebカメラを設置しましたが、そのためのものです。個々人の勤務中の映像を取得し、もし集中できていない(明らかな居眠りなど)場合に、クーラーを強め目覚めを促すものです。ソフトウェアは自動配布されており、すでに運用をしています。
なお、本システムは勤務評価には用いません。Webカメラで取得した情報は個人特定できない形で運用します。あくまでも、個人の生産性向上を促すことで、残業時間を減らすとともに業績を向上させるために導入いたしました。
なお、Webカメラを塞ぐなどの行為については、情シス部門にアラート通知が流れます。絶対に行わないようにお願いいたします。
以上
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このメールを読んで、ひどく暗い気持ちになった。社員はカメラでずっと勤務中監視されている。しかも人がではなく機械だ。おそらく、目を閉じて考え事をすると、クーラーが強くなるのだ。総務部にはいろいろとフィードバックしなければいけないのだろう。先が思いやられる。
そもそも、心理的なストレスがかかる。総務部長は勤務評価に使わないとは言っているけれど、システムの問題なので、もしかしたら社長室からはどのカメラの映像も見られるようになっているかもしれない。メンタルが弱い人はきっと何かしらの悪影響が出るに違いない。
だいたい、こんなシステムを作る会社はどこなんだろうと、Googleで検索すると、簡単に出た。
これか。AIだか顔認識だか、技術を持っていても結局こんなことに使うのか。人間は自主性を尊重され、自由な活動を持ってイノベーションを実現すると私は思っている。少なくともそこに座っていれば安定して何かを生産し続けるロボットではない。7時間遊んでいても1時間で人の1000倍の成果が出せるところが、仕事の面白さだと思っていた。それを否定された気持ちで、考え込んでしまった。今日の仕事の効率は落ちると思う。
残業とドローンと蛍の光
暗い気持ちのままメールを確認していると、もう一通総務部から来ているのがわかった。いやな予感がした。
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全社員およびパートナー 各位
お疲れ様です。総務部長の〇〇です。
WEBカメラとはまた別に、残業削減について新しいシステムを本日導入しています。20時になると、自動でドローンがオフィスを巡回します。ドローンは音楽(蛍の光)を流しながら、音声で退社を促します。
プロペラの音もかなりうるさいため、より強く退社を促すことになります。
残業時間抑制は社会的な課題となっており、当社も本システムを持って、正確にスタッフの監視を行い正常化を促していきたいと思います。
なお、ドローンは映像を取得する機能があり閉域網にてクラウド上に保管します。残業については厳しく運用することを経営課題としており、本システムによって徹底してまいります。
以上
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おいおい、Webカメラだけでもテンションだだ下がりなのに、夜間になるとドローンがやってきて追い出されるのかこの会社は・・!
例のようにGoogleで検索。これか・・。
だいたいこの記事に、
常設式の防犯カメラは「仕事中も常に監視されている不安がある」といった声が女性から多く寄せられるため、必要時のみ監視できるカメラ搭載型のドローンを活用するに至った。
って書いてあるけど、ディスプレイの上にWebカメラつけてあるやないかい・・というツッコミをしたかったが、そんなことでエネルギーを使うモチベーションそのものが消失していて、口をパクパクさせることしかできなかった。
何したいんだわが社は・・
私は会社と自分の関係について、再考しなければいけないと強く思った。間違いなく会社はスタッフを何かのファンクションとしか見ていない。しきい値を設け異常があったら排除するところまでを、システムでやろうとしている。
拒否反応を示している人々も多いだろうに、わが社は経営のトップダウンで導入していくことを決めたらしい。
こんな思いも目の前の監視カメラに見られているし、この職場ももう潮時だなと逡巡していたが、あああの仕事残ってるが今日あたり残業して片づけるかな、という思いもドローンによってかき消された。
社員の心の中まで監視してくれたらよかったのにね・・はは・・・。私の勤労意欲は今アラートを出しているよ、でもクラウドには通知されないんだ。
※大いにフィクションです。ご注意ください(二度目)。