ティントリの経営危機を知る
仮想化ストレージの世界で、私も名前だけは知っていたティントリですが、経営危機の状況であることを知りました。
仮想化専用ストレージベンダの米ティントリ(Tintri)は現在、企業として存続できるかどうかの瀬戸際にあるようです。
ストレージと言えばシステムの心臓とも言える部分です。保守契約を長期に結び故障時には24時間365日体制で早期に交換する、そんな場所です。
日本のユーザーがたくさんいる
ティントリジャパンのホームページを見て驚いたのですが、日本のユーザーがたくさんいらっしゃいます。
クラウド基盤、VDI、サーバー仮想化・・・。いわゆる経営基盤に使われているケースが散見されます。これらのユーザーはもう対策は取ったのでしょうか。
ティントリは直接ユーザーに卸しているわけではなく、おそらくSIベンダー経由で購入したと思われます。SIベンダーが事前に察知してリプレース提案に動いていれば良いのですが。
もともとVMware自体のシェアが日本では非常に高いために、このストレージとして高い評価を受けていたティントリのストレージです。事例を見ていくと富士通がOEMにて自社ブランドで売っているケースもあるために、富士通が出すものならということで採用したケースも散見されます。
影響は小さくないようです。
日本での評判が良かった
私もティントリ登場当初の華やかな記事を覚えています。
2012年
「仮想化専用」ストレージアプライアンスが本格的に国内展開 − @IT
VMstoreの最大の特徴は、VMwareの仮想マシンや仮想ディスクを認識し、これに基づくチューニングが行えること。一部で指摘されているアラインメント問題(仮想マシンファイル自体のデータブロックとストレージ媒体のデータブロックをそろえないとパフォーマンスが落ちるという問題)にも、これによって対応するという。
確かに、VMware導入時のストレージの設計は非常に難しいものでした。ストレージまるごと1つのデータストアにしていいものかどうか。ある程度区切ってVMwareに渡すべきかどうか・・。このあたりを解決した製品として便利そうだなあという感想を持ったことを覚えています。
2013年
ティントリは、やはり「仮想化専用」ストレージだった:3Uサイズ1台で1000の仮想デスクトップを稼働 - @IT
ティントリジャパンは、日本法人設立以前からティントリを国内展開しているノックスに加え、丸紅情報システムズを付加価値リセラーとしている。また、サポート面ではユニアデックスと東芝ITサービスがパートナーとなった。2013年は、パートナーを選択的に拡大するとともに、知名度の向上を図っていきたいという。
翌年には日本のベンダーを大きく巻き込んで、ユーザーに訴求していった拡大の年でしたね。
2014年
ティントリジャパン、同社ストレージを富士通にOEM提供 | マイナビニュース
ティントリジャパンは9月10日、Tintriとして初めてOEMパートナー契約を富士通と締結し、富士通がTintriのOEMストレージ製品である「ETERNUS TR series」の販売を8月27日から開始したと発表した。
米Tintriは、2008年に設立され仮想環境向けに特化したストレージベンダーで、500以上の顧客と150のパートナーがいる。
(中略)すでに50件程度の商談が進んでいるという。
富士通も他社ベンダーやユーザーからティントリ導入の評判を聞き、これはいいぞということでここでOEMパートナー契約に至ってますね。まさか2018年にこんな状態になるとはと頭を抱えているでしょう。
2015年
仮想環境特化型ストレージのTintri、VMworldに先駆けてプライベートイベントを開催 | Think IT(シンクイット)
冒頭に登壇したのはTintriのCEO、ケン・クライン(Ken Klein)氏だ。まずはTintriの順調な成長を創業の2008年当時から最初の製品であるT540の出荷(2011年)、2014年におけるInfoworldでのProduct of the Year受賞などを振り返って紹介。来年に予定されているIPO(Initial Public Offering:株式公開)に向けて順調に成長していることを強調した。
ここでクライン氏はTintriのユースケースがサーバーの仮想化、デスクトップの仮想化、クラウドコンピューティングの3種類にほぼ均等に分かれていることを説明したうえで、「Tintriの製品は想像以上にクラウドプロバイダーでの導入が進んでいる」と示した。また日本の導入事例としてNTTコムウェア、パートナーとしてNetworldのコメントなどにも触れ、日本からの参加者に対する思わぬプレゼントというかたちになった。米国内でのプライベートイベントでこのように日本企業が持ち上げられるのは異例と言えるだろう。日本市場に対する期待の現れが垣間見えた瞬間だった。
かなりの勢いを感じる記事です。
来年上場するぜ。そして日本市場好調だぜ。今の状態を考えると闇の深い記事だと思います。
2016年
ASCII.jp:ストレージ市場の3つのディスラプト、ティントリは生き残る
日本での顧客も200社を超えており、ワールドワイドから日本の売り上げシェアも10%近くになっている。ネットアップに続くストレージベンダーとして富士通から選んでもらったことで、日本市場に求められる品質やサポートも実現できた。
米Tintri CEO ケン・クライン氏が語る成長を支える自社製品の強み | マイナビニュース
国内ユーザーには、OEM製品を提供するとともに沼津ソフトウェア開発クラウドセンターの基盤として採用する富士通や、社内と一般向けに仮想デスクトップサービスを提供するNTTネオメイト、会計事務所向けサービスの基盤として採用するTKC、広告サービスの基盤に採用するアドウェイズ、CCCグループの社内共通仮想化基盤として活用するT-MEDIAホールディングス、ネットサービスの基盤に採用するDMM.comなどがある。業種は、金融、製造、流通、医療、通信、自治体など多岐にわたる。
上場はこの年にはならなかったようですが、日本市場でのティントリの評判は相当に良かったのは間違いないです。富士通やネットワールド当たりの力が大きいように思います(記事を読む限りは)。
2017年
米ティントリ、新規株式公開と公示価格を発表 - 週刊BCN+
米ティントリ(ケン クラインCEO)は6月29日、新規株式公開に向けて、株式の価格を1株あたり7ドルに設定し、857万2000株を公開したと発表した。
同株式は、NASDAQグローバル・マーケットで6月30日にシンボル「TNTR」で取引され、7月6日に終了する予定。また、引受人に同社の普通株式を追加で128万5800株の一般公開株を購入する30日オプションを付与している。
そして上場。上場からまだ現在までちょうど1年しか経っていない。何があったんでしょうか。
ASCII.jp:セガゲームスがティントリ導入で“モンスターVM”を倒した話
そんなセガゲームスでは2016年、本番サービス環境にティントリの仮想化環境専用ストレージ「Tintri VMstore T850」を新規導入し、運用を開始した。
セガゲームスも全社的に使っているっぽく、これは痛そう。
ティントリユーザーが本音を明かす「Tintricity 2017 TOKYO」を開催 - 週刊BCN+
ティントリジャパンは、9月21日、パレスホテル東京でユーザーイベント「Tintricity 2017 TOKYO ~ティントリユーザーの集い~」を開催した。
この記事を読むと、導入ユーザーはかなり広範であり、影響は広範だと思います。ある日、自社の基幹で使っているオンプレのストレージが保守できなくなるかもしれないと言われたら、どんな気分でしょうか。
2018年
ASCII.jp:デイトリウムが日本法人設立、“新世代”CI製品の本格展開開始
米国デイトリウム(Datrium)が2018年2月14日、日本法人であるデイトリウムジャパンの設立記者発表会を開催した。日本法人社長には、2012年から6年間ティントリジャパン社長を務めた河野通明氏が就任している
こちらはデイトリウムという別のストレージの会社ですが、なんとティントリジャパンから社長が引き抜かれていることがわかります。かつ、技術担当副社長であった首藤氏もそのまま技術担当副社長として横滑りしています。
そして今日の記事に至ります・・。
株価の推移と今年の状況
株価を見るとだいたいの事情が透けて見えるというものです。
TNTR Interactive Chart | Tintri, Inc. Stock - Yahoo Finance
上場時には7.25だった株価が、今は0.2368。30分の1と言ったところでしょうか。2018年3月から4月にかけて暴落していることがわかります。
Does Tintri Inc (NASDAQ:TNTR) Need To Raise More Cash? – Simply Wall St News
ティントリの経費は現在、日々の業務から得られる金額よりも高くなっています。つまり、自己資本のキャッシュでオーバーヘッドに資金を提供しています。Tintriは、営業キャッシュフローがマイナス83.77億ドルで、事業を運営するために54.89Mドルの現金準備金を奪っている。キャッシュ・バーン・レートとは、会社が時間の経過とともに現金を使い切る率を指します。
この記事が2月なので、この時点でこのままいくと現金が尽きてしまうことをアナリストは予想していたようです。
https://seekingalpha.com/article/4182301-tintri-hope-acquisition-final-days
Tintriは、6月30日を過ぎても運用を継続するのに十分な流動性を持たないと指摘した8-K申告を発表した。
Tintriはまた、2019年第1四半期(4月に終了した四半期)の結果を発表した。同社では、売上高が-28%の減少となった。
5月30日時点で、Tintriは11.5百万ドルの現金のみを貸借対照表に残しました。これは、2,500万ドルの四半期毎のキャッシュ・バーン・レートを支えるには不十分です。
同社は6月22日にナスダックから30日連続して1.00ドル以下で取引されるため、リストから除外される予定です。
Tintriは第3四半期以来の販売を失敗しており、IPはほとんどなく、顧客基盤が低下しているため、買収者にTintriの相当な債務を負うよう説得するのは難しいだろう。
もう言葉もでないです。
https://seekingalpha.com/article/4185107-tintri-ceo-exit-manufacturing-breach-signal-end
Tintriの生存の可能性はほぼゼロにまで下がっており、最高経営責任者(CEO)はわずか3ヶ月で退職し、人員の80%が解雇された。
もしティントリが高格付けの債権者に払い戻すことさえできれば、ティントリにかかるコストは未確定の退職金額である。
Tintriはまた、主要な製造パートナーであるFlextronicsから、支払勘定を支払わない契約の違反を理由に、終了通知を受けた。
ほぼ確実に絞首刑に向かうにもかかわらず、株式の市場価値は900万ドルに上っている。
これは4日前の記事。絶句します。
日本のティントリユーザーに向けて
まだ使っていて何の対策も取っていないのならば、至急、導入ベンダーを呼び、今後の対策について議論を開始すべきです。
もしくは対策を取ったのであれば、その旨周知すべきです。
ストレージのリプレース、しかも別のベンダーへの載せ替えというのは、基本的に大型のプロジェクトです。VMwareで言えば、ストレージvMotionを使って無停止でVM1つずつ移動していくものだと推察しますが、ストレージの量が大きければ大きいほど時間も手間もかかります。
当然、ストレージだけでは動かないので新ストレージに適したスイッチも必要であり、ネットワーク設計も含んで移行計画を立てていきます。
とにかく、議論が先です。
繰り返しとなりますが、クラウド基盤・VDI(仮想デスクトップ)・サーバー基盤の本丸にあるストレージの共有ベンダーがこの状態ということは、かなりビジネスに近い部分で危険な状態だということになります。どこかでユーザー企業は、移行を安全に終わらせ、エンドユーザーに向けて安全宣言を出さないといけないのではないでしょうか。一般のエンドユーザーから不安が広がっていくということにもなりかねません。
続報
2018/7/10
ティントリ社、ナスダックから上場廃止決定通知を受け取る - orangeitems’s diary