orangeitems’s diary

40代ITエンジニアが毎日何か書くブログ

2020年4月から施行される改正民法(債権関係)がIT業界に与える影響まとめ

f:id:orangeitems:20180704164350j:plain

 

はじめに

IT業界であるかどうかにかかわらず、契約書は非常に重要です。

この契約書の根拠である民法(債権関係)が、2017年5月26日に改正されており、2020年4月1日から施行されるスケジュールになっています。

請負・準委任契約の在り方や、瑕疵の考え方が変更されており、IT業界は大きく影響を受けます。現行のシステム開発や保守に関わる契約書の変更の検討は間違いなく不可避になります。

変更点を情報収集しましたのでご確認ください。

※システムエンジニア個人がまとめた情報です。厳密には後述の参考文献をご覧いただくことをお勧めします。

 

請負契約の大きな変更点

請負契約とは、ベンダー側が指揮命令権や裁量を持って仕事を行い、システムやアプリケーションなどの成果物を完成させ、クライアントに納品する義務を負う契約です。

請負契約に関する変更点は以下の通りです。

 

① 瑕疵(かし)という言葉が無くなり、「契約不適合」という言葉になった

まず言葉の変更です。IT業界に在籍していたら必ず瑕疵(かし)という言葉を耳にするのではないでしょうか。納品したシステムやアプリケーションに不具合があった場合で、仕様通り作られておらずベンダーに責任があることを瑕疵と呼んでいました。

瑕疵をベンダーが補償しなければいけない責任を「瑕疵担保責任」と呼んでいたのですが、これが「契約不適合責任」という言葉に置き換わりました。

 

② 修補請求、解除、損害賠償請求のほかに、「減額請求」も可能に

これまで瑕疵(契約不適合)が発生した場合は、クライアントは以下を行うことができました。

1)修補請求・・・無償での不具合の修正をベンダーに求めること
2)解除・・・契約そのものを無かったことにする
3)損害賠償請求・・・瑕疵のために被った損害をベンダーに請求する

例えば、ベンダーに不備がありシステム開発が遅れに遅れベンダーが予定通りに納品できない場合、契約を解除したうえで損害賠償請求する、ということが長年行われてきました。

システム刷新に失敗した京都市、ITベンダーと契約解除で訴訟の可能性も | 日経 xTECH(クロステック)

システム開発の失敗を巡り裁判に至るまで、旭川医大とNTT東の2010年 | 日経 xTECH(クロステック)

もちろん、非がベンダー側にではなくクライアント側にあることもあり、一概にクライアントの言い分が通るわけではありません。二例目の旭川医大の裁判における二審ではまさにそういう判決になっており最高裁に上告中となっています。

 

この3つの対応に対して、もう1つ対応方法が追加されました。

4)代金減額請求

つまり、契約の中で実現するとされているものの中に、一部ベンダーの責任において実現していないものが発見された場合、契約にて支払う予定となっていた金額を減額する請求をベンダー側にすることができるというものです。

クライアントが請求書の金額を減額するようにベンダーへ請求できるということですね。

 

③ 修補請求に制限

納品した後、「これができてない」、「こういうつもりじゃなかった」、そんな要求要望がメールやredmineやbacklogでいっぱいになって、ローンチ後大赤字、なんて案件を経験したことがありませんか?

もちろん追加案件ということで有償案件化できれば良いお客様ということになるのですが、クライアントによっては何でもかんでも瑕疵にしてきて、途端に関係が険悪になるということも散見されます。

この瑕疵を修正することを修補、と呼ぶらしいです。

この修補の請求に、重要な制限事項が設けられました。修補にコストがかかる場合は、瑕疵が重要かそうでないかに関わらず、請求できないことになりました。

意味合いとしては、コストがかかる修正は損害賠償請求にて解決されるべきである、ということになります。これで、現行と比べてベンダー側は相当楽になるものと思います。コストがかかるものは瑕疵かどうか、またその重大性に関わらず無償の修補を避けられるようになります。

「これは工数がかなりかかるので、瑕疵で処理するのは無理です(きっぱり)」とベンダーが言えることになりますね。

 

④ 瑕疵(契約不適合)が発見された場合における、責任追及期限が変更

納品物に不具合があるとして、永久にクライアントがベンダーへ責任を追及できるわけではありません。これまでは納品してから1年、が常識だったと思います。

これが、「クライアントが不具合に気が付いてから1年」かつ「ベンダーが納品してから5年以内」に変わりました。

クライアントが気が付く気が付かないが争点になると、かなり主観的なものです。今気づいた!と言われたらそれまでです。したがって、実質納品後5年以内に引き延ばされたと考えるべきかと思います。

 

⑤ 納品物が未完成であっても、ベンダーが報酬を請求することができることがある

システム開発において、クライアント側がベンダーに難癖をつけて契約解除に追いこんだうえ、その成果物を独り占めするというパターンへの対策となります。

プロジェクトが中止になった場合でも、クライアント側に何らかの利益が発生している場合には、ベンダーが一部を請求しクライアントが支払う義務があると明文化されました。

ユーザー側が進行中のプロジェクトを中止にして、その分の費用支払いを無かったことにしようという目論見が明確にできなくなるということになります。

 

準委任契約の大きな変更点

準委任契約とは、請負契約と同じようにベンダーの指揮命令・裁量で仕事が進められ、かつクライアントに仕事を完成させる義務のない契約です。事務処理の実施が報酬の対価であって、その完成・未完成に関係がないところが特色です。したがって、瑕疵(契約非適合)という概念もありません。

いわゆるSES契約はこの範囲になります。もし、直接、常駐先の社員からSES契約をしているベンダーに直接命令や管理がされるのであれば、違法です。あくまでも指揮命令系統はベンダー側になければいけません。

また、請負契約との違いとして、ベンダー側からもクライアントに契約の解除を求めることができる点が挙げられます。

準委任契約の大きな変更点は以下の通りです。

 

① 仕事の完成を前提とする準委任契約を結ぶことができるようになる

これまでは仕事の完成は前提となっていませんでした。

今後、クライアントとベンダーが合意すれば、仕事の完成を前提として準委任契約を結ぶことができるようになります。この場合請負契約との差があいまいになりますが、依然として瑕疵担保責任は発生しません。

瑕疵担保責任のない請負契約、のようなイメージです。

利用シーンについて、下記記事に記載がありました。

成果完成型の準委任契約にすべきケース

改正民法で導入された成果完成型の準委任契約にすべきケースがないか考えてみたのですが、個人的には以下のシナリオが思いつきました。
発注側:成果物は明確
発注側:委託先は決まっている
受注側:プロジェクト開始前の段階では、実装方法があまり見通せていない
見積りに時間がかかりそう、あるいは不正確なものになりそう
見積りを出すとしたら、最悪のケースを想定した高額のものとなる
例えば、A社がB社に仕事を依頼したいが、B社としては、この案件にどのくらいかかるかちょっと見通せないため、見積りを依頼された場合、高額なものを出さざるを得ない。A社としては、最悪、その見積り金額くらいを支払うのも厭わないが、できれば実際にB社がかけた時間に比例した金額を支払いたい。けど、確実に成果物を納品してほしい。そんなケースです。
要は、今までのような時間単位の準委任契約で良いが、システムが完成しないのにお金を払うというリスクを避けたい場合です。

民法改正と瑕疵担保責任ありの準委任契約 – もばらぶん

いよいよ、請負と準委任契約の境目がわかりにくくなってきた改正のように思います。

 

補足

改正前も改正後も、債権法の内容より、契約書の方が優先されるそうです。

したがって契約書の内容はとても重要です。契約書に書いて無ければ、債権法が適用されるということになります。

2020年4月の施行に向けて、現在の契約書にて整合性が取れているか今一度確認し、もし新債権法とは違う内容が書かれている場合に、再度社内で検討することが必要であろうと思います。

 

参考文献

リンク:

IT業界の契約書に激震!民法改正が及ぼす影響とは – GOAL MAGAZINE

民法改正と瑕疵担保責任ありの準委任契約 – もばらぶん

民法改正がシステム開発に与える影響とは?3つのポイントを徹底解説 | IT・仮想通貨(ICO)に強い弁護士|【トップコート国際法律事務所:IT弁護士】

請負だって聞いていたのに、これじゃあ人材派遣じゃないですか! (1/3):「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(57) - @IT

 

単行本:

民法(債権関係)改正法新旧対照条文

民法(債権関係)改正法の概要

一問一答 民法(債権関係)改正 (一問一答シリーズ)