orangeitems’s diary

40代ITエンジニアが毎日何か書くブログ

パーシステントメモリーの登場でデータセンターは激変する

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業界のルールが変わる

新しいメモリーが世界を変えます。しかも2020年。2年後の話です。

メモリーは外部記憶装置と比べると爆速なので、最近はインメモリーデータベースという、データをすべてメモリーに置きバックアップを外部記憶装置に置き実行するタイプのデータベースが流行しています。最近はどの商用データベースを選んでもインメモリーデータベースのサポートをしています。それぐらいメモリーは高速に計算するうえでは重要な部品です。

ただし、基本的にメモリーは、電気を通し続けないと記憶した情報が失われてしまいますよね。ですのでハードディスクやSSDなどの外部記憶装置に書き込んで電源を停止してもデータが保管するようにしています。

パーシステントメモリーという単語をご存知でしょうか。

パーシステントとは、持続的という意味ですが、なんと電気を通し続けなくてもデータが失われないという夢のメモリーです。この「夢さ」がまだ日本には伝わってないと思います。電源を停止してもメモリー情報が残るというのは、実際ITのインフラに携わっている人間にとってかなりのルールチェンジです。パーシステントメモリーが一般的なものとなり、最近のDIMMと呼ばれるメモリが無くなったらどうなるかを、よりエンドユーザー目線で想像したいと思います。

 

電源が消失しても、再度電源をつければ継続できる

例えばパソコンの「スリープ」という機能はメモリーだけ通電させ続けることで復帰できます。「休止状態」は外部記憶装置に書き出して電源を停止します。VMwareを利用の方はご存知かと思いますが「サスペンド」という状態はこれと同じです。何しろ外部記憶装置に書き出さないとダメで、電気が継続していないとスリープ機能は実装できないのが常識でした。

スマホのスリープも結局は電池が微弱な電力を通電させ続けてくれるので、実装できています。最近は省電力化がどんどん進んで、スリープ時の電源の減りも穏やかになりました。昔のAndroidはほっとくとすぐ電池が無くなっていました。

さて、このパーシステントメモリーの登場。電気が無くなってもスリープ機能が可能になるのです。

何らかの理由で電源が停止しても、データが破損する確率がぐっと低くなります。これまでデータが壊れる最大の理由は、メモリが外部記憶装置に書き出しを行っている途中の電源喪失でした。書き出しが中途半端なためファイルシステムと整合性があわなくなるのです。この仕組みを回避するため、サーバー機器では、RAIDカードを介在して外部記憶装置と接続し、RAIDカードに電池を入れて停電しても書き込みキャッシュを保持するという仕組みでこれまで回避してきました。この装置も不要になります。電源が復旧したら途中の書き込みが再開されるためこの問題が解決するのです。

 

コンピュータの再発明

パーシステントメモリーの登場は、コンピューターの常識を大きく変えることになります。

 

アイドル時の消費電力がゼロに

メモリーを保持するのに電気がいらなくなるので、この世のオンラインのコンピューターの消費電力がぐっと下がります。CPUがアイドル状態でディスプレイの表示をオフにしたらほぼ電力消費がゼロになります。

データセンターを例にとってみれば、プログラムはいつでも動作してしているのではないし、サーバー側はディスプレイがありませんので、データセンターの電力消費量が相当に下がると思います。物理サーバーはだいたいOS起動時に600Wぐらいを使い、アイドル状態が100Wぐらいだったと記憶しています。この100Wが0に近づいていくという目安を持っておけばいいと思います。

 

システム保守が楽に

かつ、電源断などの障害が起きたとしても、電源が回復すればそのままプログラムが継続します。したがって、保守が相当に楽になります。部品の種類を変えなければ電源を停止し交換後起動すると、なんとプログラムはそのまま動き続けるのです。

システムの停止→OS停止→電源停止→部品の交換→電源起動→OS起動→システム起動、という一連の手順書が、かなりの運用保守の世界で作成され利用されていると思いますが、これがかなり省力化されます。電源停止→部品の交換→電源起動、で十分です。もちろん異常時はシステムやOSの再起動が必要とはなりますが理論的には不要となります。

 

すでに実用化が近い。メモリーの問題ではなく業界がひっくりかえる。

・・・と、ここまでは緩やかな変化な話ですが。もっと刺激的な話があります。

持続的メモリーとは、結局はストレージと何ら変わらないわけで、これを大容量化していくとストレージは不要になります。最終的にはストレージサーバーはすべてなくなり大きなメモリーが残ることになります。

実はここまで見越して2014年から米ヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)にて、1つのプロジェクトが進行しています。「The Machine」です。

www.atmarkit.co.jp

japan.zdnet.com

ascii.jp

これらの記事を読むとわかるように、これまでのコンピュータは1960年代のいわゆるノイマン型アーキテクチャーから進んでおらずこのままでは進化が頭打ちになる。これを根本から覆すためのカギがパーシステントメモリーであることが読み取れると思います。

世の中は量子コンピューターのほうが話題になっていますが、実用化を考えるとこちらのほうが先です。

パーシステントメモリは、現在サンプル出荷が行なわれており、2018年中に一般提供開始予定であることが明かされた。対応プラットフォームは、コードネーム“Cascade Lake”こと次期Xeonスケーラブルプロセッサとなり、そちらと同時に展開されるという。

 同氏は、MicrosoftやSAP、VMWare、Linuxといったパートナーからのサポートも受けており、本番システムで利用するためのエコシステムを提供し、簡単に導入できると述べた。

まさに、部品レベルでは今年実用化される分野であり、来年までに相当な変化が起こると想像しています。例えば、この技術を用いて新しいクラウドサービスが出現したら、これまでのインフラは一気に古いものになってしまうぐらいの爆発力をもった技術だと思っています。もしくは、オンプレでもこれだけパワフルで電力もいらず、障害にも強いのであればクラウドサービス不要論も議論されうると思います。

 

まとめ

新しいメモリーが出るのねというレベルの話ではないのに、まだそう誤解している業界関係者も非常に多い分野です。1960年代から続くコンピューターの仕組みは情報処理技術者試験にも登場するくらい基本的なことで、業界経験が長ければ長いほどその呪縛からは逃れられないと思います。

飛行機がない状態から飛行機が発明されるぐらいのことが、今まさに起きようとしているわけで、頭を柔らかくしてのぞまないと、「老害」扱いされてしまいます。

ついに一般提供開始まで来てしまったので、あとはその衝撃を受け止め新しいビジネスを作れたらいいなと思う次第です。