オシャレなクラウドエンジニアと、ITベンダーの温度差
外から見るとクラウドエンジニアってそう見えてるのね・・という記事を読みました。
パブリッククラウドの導入が一段と進んでいる――。こう感じた出来事があった。クラウド導入を専業とするITベンダーに取材に行った際に、「スーツ姿で勤務することが増えている」という話を聞いたことだ。
結構本質は捉えているとは思います。クラウド専業と言っているのは、おそらくAWSを得意とするベンチャー企業を意味していて、下記のような特徴を持つと思います。
・私服でオシャレ
・リモートワークなど充実
・カフェのようなオフィス
・若い人が多い
・業務外で良く集まる
・会社の外の関係があり、飲み会が多い
はてなを見ていると、社内の記事がアップされ上記のような様子が表現されていることがありますね。
今日もこんな記事を見つけました。
私のイメージにぴったりです。
これをいいとか悪いとか言っているわけではなく、ユーザー側である日本企業にとってこれまでのITベンダーの在り方とは真逆だというのが日経 xTECHの記事ということになります。
考察
シリコンバレーのスタートアップが醸し出す文化が、日本のITベンチャーに伝染し、そして彼らがAWSをはじめとするパブリッククラウドを基盤として用いた。そんな流れで「クラウドエンジニアは何か苦手」というユーザー企業が多いのだと思います。
ベンチャーのマインドだととりあえずサービスをリリースすることが最優先で、そこからはPDCAを回し続けてどんどんバージョンアップさせるということが大事になります。ですので、Kubernetesなどのコンテナ技術でどんどんリリースすることもチャレンジしていますし、ダメなら元に戻せばいいじゃん、というノリです。
一方で、ユーザー企業は中期経営計画に基づいた投資計画を前提として、5年計画を基本とした予算を作成し、稟議書として経営に提案して初めて認められるのがITです。したがって、「とりあえずやってみればいいのに」とはならないのは当たり前と言えば当たりまえです。そもそも、内部統制自体がそのような仕組みでもあり、経営のガバナンスがないのに予算が柔軟に使われるようには決してなっていません。
内部統制の仕組みが、もっとアジャイルな柔軟なものになっていかなければいけないとは思いますが、日本のユーザー企業の場合はITに精通した人が経営につくことは少なくて、稟議持ってこいや!5年分の予算計画立てろや!となるのは致し方ないと思うところではあります。柔軟であるというのはすなわち、変化に応じて決断を早くしていくことになるのですが、これこそITに対して精通しているというのが最も重要です。アメリカではIT自体が基幹産業となっていることもあり経営がITをわかっているケースが多いので、このあたりは国の違いということで理解するべきだと思います。
だって、地球人すべてがITやってたら、ごはん食べていけないですからね。非ITだって立派な産業ですし、ガバナンスの方法は違ってしかるべきです。
ですから、クラウドエンジニアがシリコンバレーに触発されて、ユーザー企業から疎遠にされればされるほど、どうなるかというと、これまでのSIerで伝統的なIT、つまり記事中のスーツ姿で仕事してきた人がクラウドをやりだせば、ユーザー企業はこれまでどおりSIerのクラウドエンジニアを普通に採用すると思います。日本流のガバナンスにおいては、スーツとネクタイのドレスコードは組み込まれていて、所詮クールビズと言ってもネクタイを外すくらいです。そして、これまでのITの仕事文化の通り、お客様にクラウドを1つのツールとして最適化して提案すれば、それは単なる普通の仕事です。
記事のように、クラウドエンジニアは私服で~、という誤解が世間に出回っているうちは、スーツでお客様にお邪魔するだけでポイントになるので、楽な話だと思います。だって、スーツ着て落ち着いた対応をするってのは、ITの知識全然関係ありませんからね。
ちなみに、オンプレだと99.999%の可用性、パブリッククラウドだと99.99%だという記載が記事中にあるのですが、実態はそんなことありません。オンプレでもいろいろ起きますよ・・。むしろオンプレこそ問題を抱えている場合が多いです。パブリッククラウドは少なくとも大規模なインフラを構えている時点で、いろいろな悩みが解決している点も多いです。一方、パブリッククラウドが健全であることが前提ですが、ちゃんと設計すればクラウドでもきっちり動きます。逆にオンプレでも、ダメダメ設計すれば99.999%なんて夢の数字です。このあたりはユーザー企業でも理解が進んでいるところだと思います。
また、障害時の対応だって、クラウドによってはクラウドベンダーも巻き込んで全力対応します。一言でクラウドと言っても結局はデータセンターで物理サーバーの上で動いているわけであって、パブリッククラウドだからユーザーと対話しないというのも、5年前くらいの認識かなと思います。特に企業向けのクラウド基盤においてはユーザー企業との会話が密接に行われています。AWSもエンタープライズサポートに入ればかなり綿密にサポートしてくれます。またAWSを担いだパートナーも、同じように全力対応するでしょう。
ということで、多分に「ユーザー企業が苦手とするクラウドを専業とするベンチャー」はどんどんSIerが買収していくと思います。で知らないうちにスーツを着る部門が中にできると思いますよ。日本ってそういう国ですから。ユーザー企業が歩み寄るんじゃなくて、SIerが会社を買ってユーザー企業に合わせて作り替えると思います。もういろいろなクラウド専業ベンダーがSIerにいくつも買収されているではありませんか。
ということで、クラウドエンジニアの現場から個人的な感想でした。