orangeitems’s diary

40代ITエンジニアが毎日何か書くブログ

出版関係者が海賊版サイトに声をあげ始めた日

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出版関係者が続々と声明

政府の後押しもあって出版関係者が海賊版サイトに対して意見を述べ始めたように思います。これまで、サイトブロッキングの法的根拠にてインターネットプロバイダー側が批判する展開ばかりが目立ちました。インターネットプロバイダー側は被害者ではなくむしろ海賊版サイトへの経路を提供している当事者でもあります。実害は受けておらずその位置からの反対意見は、被害者を前にして違和感もありました。

しかし、実際のところ著作権を管理する側であり被害者であった出版関係者もきちんと声を挙げるべきであると思います。政府がサイトブロッキングに対する見解を決定したこともあり、本日、各出版関係者から一斉に声明が出ていますので紹介します。

 

各社・各団体からの声明

講談社

海賊版サイトについての緊急声明 (PDF)

(全文掲載)

コンテンツを違法に使用する海賊版がインターネット上で横行するパターンは複数存在しますが、いずれの形においても著作権侵害行為は著作者の不断の努力やその才能を踏みにじるものです。編集や流通の過程を含めたコンテンツ創造のサイクルを破壊する海賊版サイトは、今回、サイトのブロッキング対象として名前の挙がった 3 つの違法サイトだけではなく、そのほかにも依然として多数存在しております。
これらの違法サイトの運営者、関係者たちは、著作者ら多くのクリエイターの成果を許諾なく公開し、莫大な収益を得ています。一方、出版界ではコミックに限ってもこれまで に数兆円規模の被害を受けたと試算されています。この状態が続けば、コンテンツ産業は 立ち行かなくなります。
昨年から海賊版として名前の挙がってきた「Free Books」「漫画村」などは氷山の一角にすぎません。人気マンガや雑誌、書籍を違法にアップロードして摘発されるという事例が いま各地で頻出していますが、これらの多くが個人レベルの行為にとどまらず、組織的な犯罪であったという実態も次々と明らかになっています。繰り返しになりますが、現状を放置すれば、日本のコンテンツ産業を根底から破壊し、すぐれた才能を枯渇させることは 明らかです。日本が誇るコンテンツ・ビジネスを未来に亘って発展させていくためには、ISPや流通事業者等のご協力も不可欠です。海賊版サイトを始めとするあらゆる権利侵害行為に対して、講談社は今後も刑事告訴や民事での提訴など断固たる姿勢で臨んでまいります。

株式会社 講談社

 

メディアドゥホールディングス

www.mediado.jp

株式会社メディアドゥホールディングス(東証第一部 3678、本社:東京都千代田区、代表取締役社長兼グループ CEO 藤田 恭嗣)は、出版社および電子書店事業者のご協力をいただき、近時報道等により社会的関心が高まっております、インターネット上のマンガ等に関する海賊版サイトの影響と思われるマンガ出版事業、電子書籍流通事業に関する被害状況について、以下のとおり取りまとめました。

海賊版サイトは運営管理者の特定が困難であり、侵害コンテンツの削除要請ができないことから、閉鎖や無効化に向けた有効な手立てが不足している状況です。本日発表いたしました当社2018年2月期決算においても、海賊版サイトによる影響が連結業績にも表れております。
著作物を公正な利用環境のもとで出来る限り広く頒布し著作者に収益を還元するという理念を掲げる当社は、“著作物の健全なる創造サイクルの実現”をめざし、日本における文化の発展および豊かな社会づくりに貢献したいと考えております。当社は、著作権者等の権利を著しく損なう海賊版サイトの根絶に向けて関係者との協議を重ね、対策を検討しております。また、今後の法制度整備ならびに著作権教育の推進においても著作権者および出版社と協調してまいります。

※その影響についての資料もWEBサイトに掲載されています。

 

集英社

海賊版サイトについての緊急声明

集英社は長年、海賊版サイトについて様々な対策をとってまいりました。
しかし、削除されたファイルの自動的なアップロード、
秘匿性の高い海外のサーバー利用などにより、対応は年々、困難になるばかりです。
現在のような海賊版の横行が続けば、
魅力的な作品が次々に生まれる創造のサイクルは消滅します。
そのギリギリの状況で、今回「インターネットの海賊版サイトに対する緊急対策」が示されたことは海賊版対策において大きな前進と考えます。
今後、実効性のある対策が整備されることを強く望みます。
もちろん、集英社としても、より使いやすい正規サービスを提供するなどの努力を継続し、また海賊版サイトなど悪質な侵害行為に関しては、
これからも刑事・民事両面で厳しく対応してまいります。
株式会社 集英社

 

出版広報センター 

【声明】 政府よる海賊版サイトに対する緊急対策について

本日、政府の知的財産戦略本部・犯罪対策閣僚会議において、海賊版サイトに対するブロッキングを促す緊急対策が決定されました。
これは政府が海賊版サイトの問題を、わが国のコンテンツ産業の基盤を揺る がす重大な問題と認識していることを示すものであり、出版界として歓迎します。
私たちは長年、海賊版サイトに対してできうる限りの対策を施してまいりました。しかし個社による対応では限界があり、法整備も含めたより効果的な対策 の必要性を強く感じておりました。
今回の決定が、リーチサイトの違法化や、サイトブロッキングを含めた具体的かつ実効性のある法制度の整備につながることを強く希望します。
そして、著作者が心血を注いで創り上げた作品を適正な形で読者のみなさまにお届けするという出版界の役割を果たすため、正規版配信サービスをこれまで以上に充実させると同時に、海賊版サイトを含めた著作権侵害行為には、関係各機関と連携しながらこれからも厳しく対応してまいります。
2018年4月13日
出版広報センター

 

一般社団法人マンガジャパン

www.manga-japan.net

著作物を違法に公開するサイトの存在は、出版文化に関わる努力を疲弊させています。
本来、出版物の内容についてエネルギーを注ぐべき著作者や版元が、違法コピー対策に労力を割かなくてはいけない現状は出版文化が持つ本来の「生み出す充実感」と程遠いものです。
今回「違法サイトブロック」の措置が取られる動きについて、「生み出す側」としてはとても心強い支えだと受け止めました。しかし、同時に、そのような形でブロックすることが「表現の自由」を損なう方向につながるのではないかという不安も感じています。
どういう形が民主主義と言えるのか?とても難しい問題です。
完璧とは言えませんが解決に近づくシンプルな方法はあります。
閲覧者のみなさんが「違法コピーサイト」とわかったサイトにはアクセスしないーこれが、違法サイトを存続させない有効な手段です。「ただで読めるのはトクだし楽だ」という楽しみ方は、新たな著作物の誕生を阻害します。
一時の「楽、トク」という手軽さに流されない読者のみなさんの姿勢こそが、出版文化を支える力になります。どうか著作者や出版元の努力を応援するという気持ちで「生み出す力」を支えていただければと願います。

以上

 

考察

サイトブロッキングに対する反対声明が数本出てどうなることかと思いましたが、やはり当事者からの訴えというものは切実であると思います。

インターネットプロバイダーや学者は、これまで損害は受けておらずどこか当事者意識がなかったのではないかと思います。強い意識を持って考えたのは政府よりサイトブロッキングの検討を突きつけられたからだと思います。

一方で出版関係者・クリエーターはここ10年ほどじわじわと苦しめられていてかつここ最近はスマートフォンや4G・光回線やWIFI、CDNやグローバルなクラウドインフラを始めとしたインターネットの進化により、一般市民にとって海賊版サイトのユーザビリティーが快適となってしまいました。当事者はもはや生きるか死ぬかといったレベルまで来てしまったのが切実なところだと思います。

講談社の村松さんが書かれた、ムラマツ・レポートを改めて思い出します。

www.orangeitems.com

ムラマツ・レポート、というのはこちらの村松さんが書き上げた報告書です。現在の電子化の流れに対して最適化していかないと漫画が読者に届かなくなるという内容です。

こちらが最終的には全社に配布されることになり、これを解決するために立ち上げられたのが「コミックDAYS」とのことです。

出版社の中の人も電子化の流れに最適化しなければいけないことを重々承知です。集英社も今回の声明の中で、使いやすい正規サービスをリリースしていかなければいけないとおっしゃっています。海賊版サイトを決して許さないという方向と、正規の電子化サイトを構築していくことは何ら矛盾しません。むしろ両方を同時に進める必要があります。

今回、サイトブロッキングに反対を表明した団体は、改めて出版業界が被害を受け続けている状況をどうすれば解決できるのかを法的に、あるいは技術的に、示してほしいです。具体的に言えば、法学家は立法上の提案、情報技術の専門家はインターネット運用上の技術的な提案が必要です。反対反対では物事は解決しません。現行法では拙速とか憲法違反だとか言っても、何一つ海賊版問題は解決しないのです。こうしている間にも隠れた海賊版サイトでクリエイターのモチベーションが蝕まれているのです。

ぜひ、秋に法案が出るまでに、前向きに、さまざまな立場の人々が提案を出して欲しいと思います。法案が出てきてたときの非当事者による「ダメだムリだ」などの後出しジャンケン的批判キャンペーンは本当にやめて欲しいところです。先に提案をお願いします。議論をぜひ行いましょう。目的は海賊版サイトの消滅であり国民共通の利益です。

 

追記

遮断を依頼されたインターネットプロバイダー側から、後ろ向きな声明が出ていますね。

海賊版サイトへの対策として政府がブロッキング(接続遮断)を要請することについて | 一般社団法人日本インターネットプロバイダー協会

本当に自分たちが被害者でないとこんな反応なんでしょうね。他国では通信の秘密が定められている一方でブロック制度もちゃんと整備され施行されているのを鑑みて、ぜひ理性的な対応をしていただきたいものです。他の方法があるというのならその方法を具体的に示し、秋の法案への具体的提案をお願いします。

参考:

通信の秘密 - Wikipedia